Petar Maric

一時期、アコーディオンワールドカップ「Coupe Mondiale」関連の動画を集中的に見ていて、発見した奏者。

たぶん、私がその存在をはっきり認識したのはイカーリネンのアコフェスでの動画だったと思う。

超絶テク系の「技見せ」的なところのある弾き手で、汗を飛ばしながらの熱血演奏もさることながら、とにかくよく動く表情が印象的で、彼が出てくるととたんにぱあっと雰囲気が明るくなる華やかさがある。いわゆる「華」があるタイプ。ユーモアとサービス精神も旺盛で、ステージアクションも大きくサプライズに満ちていて、決して観客を飽きさせない。

で、しばらく時系列に彼の演奏動画を見ていったわけなのだが、youtubeで見られる中で一番若いのが18,9の頃の映像で、この頃はボーズ頭。日本人からすると、海老蔵を連想するような感じがある。

2009年フィンランド、イカーリネンでの演奏映像。当時19歳。

(ちなみにこの年、グレイソンとの間で「リベルタンゴ事件パート2」が発生している。)

このときは、坊主頭もファッションでやってる「オシャレボウズ」だろうと思って何とも思わなかったのが、後日知人に「セルビアは徴兵があるから若い子はみんな坊主。」という話を聞いて、目からウロコが落ちる思いをした。

あ、そうか。そういう国もあるよな。

(その後調べたら、18歳から半年から1年の徴兵制度があるということがわかった。イカーリネン当時19歳なので、なるほどそうかも。)

 

ピーター・マリック。1990年セルビア、ベオグラード生まれだそうである。

(参考:ホーナーのアーチストページ

90年代ってこのあたり、大変だった時期だよね、そういえば。

当時、私はほんとに政治、時事問題に疎かったので、遠い異国の出来事としてあまり関心を持たなかったのだが、こうしてそこに生まれて育ってきたアーチストの姿を見ると、いろいろと思いをめぐらさずにはおれない。

どんな少年時代を過ごしたのかなあ。NATOのベオグラード空爆のときに9歳だよ。

まあ、5歳からアコーディオンをやっているということだし、音楽に打ち込める環境があったということは、どっちかというと家庭は裕福な方だったのかもしれない。

彼の屈託のない明るさや晴れやかな表情からは、あんまり苦労は匂わない・・・ような。(勝手な想像だけど。)

でも本人や本人の家族は無事だったとしても、友達とか親戚とか、友達の家族が・・・とか、何らかの悲劇は、直接的にしろ間接的にしろ、まったく無かったってことはないだろう。

 

演奏動画はYoutubeに相当の数がアップされているので山ほどみられるが、本人がどういう人なのか、プロフィールなど調べようとしても案外出てこない。

頼みの綱の公式サイトはこの有様。

シンプルすぎる・・・。

 

http://www.maestromaric.com/

 

さて、私が彼の映像の中で一番好きなのはこれ。

2012年のものらしい。

演奏技術も物凄いが、なんといっても表情がすばらしい。音楽を表現する歓びにあふれているのですよねー。ほんと、楽しそう。

広~い草原で鎖を放たれて、喜んで駆け回る犬みたいに、生き生きしてて幸せそう。

その幸せが伝染してくるような演奏だ。

(そうそう、この人、仕草や表情が犬っぽい。顏立ちは整っているのに、冷たい感じにならず愛嬌があるのはソレだと思う。)

 

最近の動向を調べていくと、テクノ、クラブミュージック方面へ食指を伸ばしているようで、活動にVアコを多用している。

新しい試みとして、2013年にこんな動画もアップされていた。

VアコーディオンとDJのセッション・・・ライブリミックスというべきか。

Vアコだと実際に弾いてるのか録音された音源なのかわからないので、「演奏動画」という意味ではどうかと思うところがあるが、彼の場合は顔がよく動くので、見てて楽しい。

 ピーターがテクノ・クラブ音楽方面に行き始めた時、「なんで?」と唐突感があったのだけど、調べてみるとセルビアを含めたバルカン半島地域には「Balkan House」なるクラブミュージックの一大ジャンルがあるのですね。そこでアコーディオンもかなり使われているので、日本人が思うよりも親和性が高いのかも。

(参考:youtubeで「Balkan House」を検索した結果

SoundCloudで最近の音源も聴けるけど、前述のとおりVアコなので音源になってしまうと生楽器かどうかはわからない。もう「アコーディオン音楽」という見方からは離れて聴いた方がいいかもしれないね。

 

https://soundcloud.com/maestro-maric

 

そーいえば、彼自身のDVDのインタビューを見たことがあるが、こんなけしからんことを言っていた。

(セルビア語に英語字幕だったので、私が理解できた範囲のおおざっぱな意味ですが。)

「僕の音楽はもっと若い人のいるところで流れてほしい。イビサ島とかマイアミビーチとか。ドレスアップしたオールドレディがいるところばかりではなくてね。」

 

コラッ!と思わずゲンコツ握りしめたくなるが、彼はまだ24歳。

年相応でいいじゃないですか。ははは(棒読み)

でも「誰にでも楽しめる音楽を」とか優等生的なこと言うより、ずっと好きだわ。