Dick Contino
最近、アコーディオンの先生方にしきりに言われる「ひらひら奏法」というのがある。
アコーディオンを弾くとき、右手首から先はなるべく力を入れずにひらひらさせておき、鍵盤もできるだけ浅く押すというテクニック。で、音に対する味付けはほとんど左手で、つまり蛇腹で行うもの。
アコーディオンという楽器の仕組みとしては理にかなっており、特に速弾きには理想的な奏法なのだが、言うは易しで、どうしても右手に力は入るし、頭も右手中心に考えてしまうものだ。
「ひらひら奏法」を考えるとき、私にはいつも頭に浮かぶアコーディオン奏者がいる。
アメリカのアコーディオン奏者、Dick Contino。
ちなみに細野晴臣さんのお気に入りのアコーディオン奏者の一人だそうで、ちらほらネット上でも名前を見かけることが増えた。
彼の弾き方の特徴は、鍵盤にかるーく触ってるような、さすってるような、こすってるような、あるいは痒いところを掻いているような・・・と感じさせられる右手の力の抜けっぷり。
特に小さい音のときは、指で鍵盤を押し下げているというよりは、楽器の方を持ち上げて指に押し当てているのでは?と見えるところもある。
それと、ときに放り投げるように無造作な腕や手首のアクション。でもどんなに野放図に暴れても、指はしっかりしかるべき鍵盤に着地して鳴るべき音が鳴るので、見ていてキモチイイ!
で、そうやって、ふむふむ・・・と分析しつつ、勉強のために観ているつもりなのに、いつも途中でどうでもよくなって、ただただ楽しく観てしまうのが、彼の演奏。
ハデで華やかで明るくて、とにかくハッピーになるし、笑顔がまたいいんだよね~。
Dick Continoは1930年カリフォルニア生まれ。上の映像は2008年のものなので、78歳のときである。
演奏もすごいけど、このトシでタンクトップでステージ、そしてこの腕の筋肉!なんというか、男としての「現役感」がムンムンである。
はっきり確認できる情報があったわけではないけど、「Contino」という姓や、ミルウォーキーのイタリアンフェスによく呼ばれて演奏している、などの断片的な話から考えるとイタリア系なのかなあ。だとすると、いろいろと腑に落ちるものが・・・。
※ イタリア系移民二世でした。父親はシチリア島出身!
7歳からアコーディオンを始め、1947年にラジオ局が主催する全国規模のコンクールで優勝して一躍スターに。1949年にはバンドを結成して音楽活動を始め、エド・サリバンショーにも出演するなど、順調だった。しかし、1951年に徴兵拒否で半年ほど投獄。この時代というと、アメリカングラフィティ的なティーンエイジカルチャーのイメージが強くて忘れがちなんだけど、朝鮮戦争~ベトナム戦争へと向かっていく時期であり、若者には兵役があったのですね。
その後復帰したものの、兵役逃れがスキャンダルとなって一時は落ち目に。しかし、1957年に発売したアルバムがヒットして、返り咲いた。
「アコーディオンを弾くヴァレンチノ」の異名を持つほどのルックスだったので、俳優としてハリウッド映画にも出たけれど、そっちでは芽が出なかったみたい。
いろいろ逸話がある人らしく、彼をモチーフにした「ディック・コンティーノ・ブルース」(ジェイムズエルロイ「ハリウッドノクターン」に収録)という短編ミステリーも書かれている。
※ エルロイとコンティーノの関係については別途まとめたので、こちらで。
下は全盛期のコンティーノのテレビ出演の様子。
アコーディオン演奏中に左手のバンドがブチ切れるという放送事故だが、彼はピアノも弾けたので一安心・・・というオチ。
ちょっとちょっと!かっこよすぎでしょ、これ・・・。
近年の動画を探してみたら、一番最近のもので2014年まで追跡できたので、もしかしてまだ生きているのでは?と思い、バイオグラフィーなどいろいろ検索してみた。
とりあえず、没年が書かれている情報は発見できなかったので安心しつつ、そこでイモヅル式に、彼の息子もアコーディオン奏者として活動しているということを知る。
彼の名はPete Contino。ハデで華やかな父とは違い、落ち着いたプレイで渋いブルースやケイジャン、ザディコなどアメリカのルーツミュージックを中心に演奏している。
非常に安定感があって味わいの深い、い~いバンドなんだ、これが!
もともと父親のバンドでドラムを叩いていて一緒にツアーをまわり、アコーディオンは父からレクチャーされたらしい。文字通り、父の背中を見ながら、ステージの上で育ったような人だ。
で、この人のFaceBookがわかったので見てみたところ、昨年生まれたPeteの娘を抱いてニコニコしている好々爺なDickの写真が。
去年の10月の写真だったので、まだ元気なのかな?
まだ、元気でアコーディオンを弾いててくれるといいのだけどなー。
https://www.facebook.com/pete.contino