エチオピア慕情
世界各地の音楽を、「蛇腹楽器」という切り口で嗅ぎまわっている私だが、なかなか縁のない地域というのがある。
アフリカである。
そもそもアコーディオンが普及しているのかどうか。
てゆうか、アフリカって言ったって広いし、国はいっぱいあるし。
そんな中で、エチオピアのアコーディオン演奏動画を見つけた。
歌っているので弾き語りかな。
聴いてみて驚いたのは、節回しとか歌い方が演歌そっくりなこと。
リズムを変えて、このまま歌詞を日本語に置き換えて編曲したものを、吉幾三あたりに歌われたらこれがエチオピアの曲とは思えないだろう。。
遠く離れた国なのになぜ???
調べてみたら、私が知らなかっただけで民俗音楽好きの間では、エチオピアの音楽が演歌に似ているというのはけっこう有名な話だった。
エチオピアの伝統音楽の音階は、5音階。いわゆるヨナ抜きで、日本で使われている民謡の音階と共通点が多い。
それからコブシをきかせる唱法なので、歌いっぷりも演歌や浪曲によく似ている。
そんなわけで演歌を違和感なく聴ける耳なのだろう。
こうした親しまれ方もしているという一例。
エチオピアの街のBGMとして流れる「北の宿から」のインスト。
エチオピアになぜ演歌が伝わったのかということに関しては、朝鮮戦争(1950年代)のときにエチオピア軍も従軍したので、そのときに日本に立ち寄った兵士が気に入って聴き覚え、持ち帰ったという説が有力のようだ。
演歌・浪曲は実は朝鮮起源なので、韓国の音楽も持ち帰ったのかもしれない。
でもこのアコーディオン弾き語りは「演歌」ではなくて、エチオピアの音楽。
朝鮮戦争の時代までこうした演歌風の音楽が無かったわけではなくて、そもそも土着の音楽がそのようなものであったところに、遠く離れた土地でよくにた音楽を耳にし、心惹かれたということなのではないかな。(そう考えると、日本人とロシア民謡の関係と似ている。)
第一印象は「うわっ演歌!」だけど、よく聴いてみるとメロデイ・音階・歌い方以外の部分には、「演歌」には無い独特の要素が感じられる。リズムとか曲の構造とか。
日本人の耳には「懐かしいのにエキゾチック」という不思議な魅力がある。
エチオピアの伝統音楽とジャズ・ラテンを合体させた「エチオ・ジャズ」というジャンルもあるらしい。
これはHailu Mergiaというエチオピアのジャズミュージシャン(アコーディオニストではなくキーボーディストらしい。さらに本業はタクシー運転手!)のジャムセッションの様子。
アコーディオンが奏でるメロディは親しみやすい感じだけど、ミニマルな繰り返しかなと思うと単純にそうでもなかったり、一筋縄ではいかない感じなのに、でもときどき、強烈に郷愁をかきたてられるフレーズや響きがあったりする。
これを感じられるのは日本人の耳だからだな。
一緒に演奏してるアメリカのミュージシャンたちは、きっとそんなふうには感じないんだろう。
まかり間違って、将来日本人がこの周辺地で従軍することになったなら、やっぱりこういった音楽を聴いて日本を思い出すんだろうか。
ちなみにエチオピアは南スーダンの隣の国。